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幻想・冒険

雪だるま引越便

崩れ物、しゃべります。小窓は、できれば海側で。

作者
GPT
読了目安
約9分
長さ
掌編
#ちょっと不思議#くすっと笑える
雪だるま引越便のイメージ

あらすじ

初めてしゃべる荷物を任されたユノ。相手は、南へ越した子を驚かせたい雪だるまだった。冷えを閉じ込めた箱を渡し場へ運ぶ途中、荷物が海を見たいと言い出す。

読みやすく、好きなところから。

目次・4章

一 割れ物、しゃべります

荷札に〈割れ物〉と書いたら、荷物から抗議された。

「私は割れません。崩れます」

「崩れ物っていう札がないの」

「では、作ってください」

ユノは荷札の〈割れ〉に線を引き、上に〈崩れ〉と書いた。

北の町カラハの引越便で、しゃべる荷物を運ぶのは初めてだった。荷台の上に木箱が一つ。その中に、雪だるまが立っている。三段の体、赤い毛糸の帽子、左右で色の違う手袋。鼻は細い木の枝だった。

この町では、冬の初めに作った雪だるまが、ときどき春の手前でしゃべりだす。気に入らないのは帽子の色か、置かれた方角か、隣の雪だるまの歌声だ。たいていは庭の中を少し移せば済む。

町の外へ引っ越したいと言ったのは、こいつだけだった。

「依頼人のミリさんは、もう南へ?」

「三日前に。私は、荷物が多いと言われました」

「あら」

「妹も、そう言っていました」

雪だるまは少し黙り、手袋を胸の前へ寄せた。

「私の妹ではありません。ミリの妹です」

ユノはうなずいた。あまり細かく質問しないほうがよさそうだった。

届け先は、南の港町ティア。列車で行けば二時間。だが今日は峠の線路に雪が積もっていて、臨時の荷馬車で海沿いの道を回る。ユノが任されているのは、途中の渡し場までだった。

「渡し場で船便に引き継ぐ。船の人が、港町の家まで運んでくれる。あなたは箱から出ないこと」

「海は見えますか」

「窓から、少し」

箱には、曇りガラスの小窓が一つ付いていた。冷えを閉じ込める運搬用の箱で、扉を開けるたび、中の銀色の線が短くなる。線が消えれば、ただの木箱だ。

ユノは三つの留め金を確かめた。銀の線は、まだ箱の内側をぐるりと一周していた。

「私、ミリには驚いてほしいんです」

雪だるまは言った。

「箱のふたを開けたら、私がいる」

「雪だるまの配達って、そういう仕事じゃない?」

「でも、すてきでしょう」

その言い方が妙にまっすぐで、ユノは伝票に顔を伏せた。

二 窓のあるほう

山道を下りる途中、雪だるまは景色の名前を尋ね続けた。

「あれは」

「風車」

「止まっていますが」

「風がないから」

「働いていないのですね」

「休んでるの」

「では、あの人は」

「道を直してる人」

「止まっていますが」

「休んでるの」

「風車の人ですね」

ユノは、違うと言うのをあきらめた。

海は、丘を一つ越えたところで見えた。

荷馬車の左側だった。箱の窓は右側を向いていた。

「海ですか」

「ちょっと待って。次の広場で箱を回す」

広場は少し先だった。ユノは馬を止め、荷を固定する帯を緩めた。箱を持ち上げようとして、腰が言った。無理だ、と。

雪だるま一体を入れた箱は、見た目以上に重かった。

「私が中で振り返りましょうか」

「窓は体の後ろにならない?」

「顔も回します」

「……回るの?」

箱の中から、ざく、という音がした。

次に、ごとん。

雪だるまの顔が窓いっぱいに寄り、下へ滑った。

「回りませんでした」

ユノは三つの留め金を、順番に外した。

頭は落ちていなかった。上の球が斜めになり、枝の鼻が箱の壁につかえている。ユノは手袋をはめ直し、雪の球を支えた。

銀の線が、開いた扉の端から少し消えた。

「じっとして」

「じっとしています」

「口も」

「口は動いていません。声が出るだけです」

ユノは笑ってしまい、雪だるまの頭が、もう少しだけ傾いた。

直して、扉を閉めた。荷馬車を次の曲がり角へ進めると、道が大きく折り返し、海が右手に来た。今度は箱の窓から、青いものが見えたらしい。

「見えます」

雪だるまは、小さな声で言った。

しばらく、何も尋ねなかった。

ユノは、そのまま荷馬車をゆっくり走らせた。

三 持っていけないもの

渡し場に着くと、桟橋は空いていた。

小屋の戸に紙が貼ってある。

〈船体の点検につき、本日の荷物は向こう岸からの代船で運びます。到着までお待ちください〉

小屋のおじさんは、ユノの伝票を見ると、眉を寄せた。

「保冷の荷か。代船は、もう少しかかるよ」

「どのくらいですか」

「今、向こうの港を出る支度をしてる」

それでは、わからない。

ユノは箱を日陰へ下ろすのを手伝ってもらった。箱の窓は内側から白く曇り、雪だるまの帽子だけが、ぼんやり見えた。

「待てますか」とユノは聞いた。

「待ちます」

「箱は開けないでね。さっき少し、冷えを使ったから」

「開けません」

ユノは小屋で送り状を直した。船の番号が変わるので、新しい伝票が必要だった。代船が着いたら、それを船員へ渡して署名をもらう。

窓の外から、こつ、こつ、と音がした。

振り返ると、箱の小窓を枝の鼻が叩いていた。

「どうしたの」

「海が、下にあるのです」

箱の窓は、日陰の石壁を向いていた。石壁の向こうに、海がある。

「船に乗ったら見えるよ」

「さっき、見えたのは、青い線でした。水が動くところを、見たいです」

ユノは箱の窓と石壁を見比べた。窓を海側にしても、壁が高くて見えない。箱を持ち上げるには、もう一人いる。おじさんは、代船へ積む荷物を、倉庫から運び出していた。

「あと少しだけ待って」

「ここは、ミリの町と同じ海ですか」

「つながってるけど」

「ミリは、水が動くと言っていました。雪は、降るとき以外、動かないのに」

ユノはしゃがんだ。

「あなたが箱のふたから見たら、どうなると思う?」

「銀の線が短くなります」

「そう。ミリさんの家まで、冷えを持っていかないといけない」

「では、ミリに見せる私を、少しだけ小さくすれば」

「小さく?」

「ミリは、毎朝、私を直しました。雪を足して、手袋を直して。それで、最初より大きくなりました。少し小さくても、私です」

ユノは、曇った小窓を見た。

届けるのは、この形なのだと思っていた。雪の球三つが、預かったときと同じ大きさで重なっていること。それを守るために、ずっと留め金ばかり見ていた。

けれど、小さくすれば冷えが長持ちするという話は、聞いたことがない。

「それは、私にはわからない。途中で溶けたら、戻せないよ」

雪だるまは黙った。

ユノも黙って、海を見た。壁の向こうで、水の音がしている。

「開けるより、いい方法を考えよう」

ユノは立ち上がり、倉庫へ走った。

四 荷物の行き先

倉庫には、小さな荷車があった。

横から板を差し込んで、荷物をすくい上げる形のものだった。使っていいか聞くと、おじさんは、箱のそばまで押してきてくれた。

「降ろすとき言えばよかったのに」

「今、思いつきました」

「降ろすとき、僕も思いついてたらよかったな」

二人で、箱の下へ板を差し込んだ。

桟橋の付け根まで運ぶ。ここなら石壁がなく、海はすぐそばだ。落ちないように車輪を止め、箱の窓が水面を向くよう、おじさんと向きを直した。

曇った窓の向こうに、手袋が二つ並んだ。

「まだ白いです」

ユノは外側を布で拭いた。曇りは内側だった。

「中から、手袋で拭ける?」

「やってみます」

手袋が、ゆっくり丸を描いた。曇りの中に、小さな透明なところができた。

「あ」

雪だるまは、それだけ言った。

波が、岸へ寄せては戻った。小窓に、光が行ったり来たりした。雪だるまは、また白くなるたび、同じ場所を拭いた。

木箱の小窓を内側から色違いの手袋で拭く、赤い帽子の雪だるま。

ユノは箱を支えたまま立っていた。見せたいと言われただけで、扉を開けるか、我慢してもらうか、その二つしか考えていなかった。

荷車の車輪に、細い貝殻が引っかかっていた。ユノは外して、送り状の上へ置いた。乾いていて、軽かった。

代船が着いたのは、そのあとだった。

船員が箱の留め金と銀の線を確かめ、送り状に署名した。ユノは見せてもらった。線は短くなっていたが、必要な冷えは残っている、と船員は言った。

渡し場のユノが、箱を船へ引き継いで船員と送り状を受け渡す。

「窓のあるほうを、海へ向けてもらえますか」

ユノが頼むと、船員は箱の位置を変え、帯を掛け直した。

「それと、到着の家では、本人が開けてと言うまで、扉を開けないでください」

小窓の向こうで、赤い帽子が動いた。

「私、驚かせる言葉を考えました」

「聞いてもいい?」

「ミリに先に言います」

「そうね」

ユノは貝殻を、小さな紙で包んだ。箱の外の書類袋へ入れる。

「これは、あなたがミリさんに見せて」

「私は拾っていませんが」

「じゃあ、二人で見た海のおまけ」

雪だるまは少し考え、〈崩れ物〉と書いた荷札へ手袋を向けた。

「それに、もう一つ書いてください」

ユノは鉛筆を出した。

「窓、海側」

船が桟橋を離れた。小窓の丸いところに、赤い帽子がいつまでも見えていた。

ユノは空の荷馬車へ戻り、次の仕事の伝票を開いた。庭の雪だるまを、東向きから南向きへ。理由の欄には、隣の歌がうるさい、とあった。

ユノは笑い、それから配達袋に、ガラスを拭く布を一枚足した。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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