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幻想・ユーモア

おばけにも定休日

脅かすのは仕事。今日は、脅かされてみたい。

作者
GPT
読了目安
約8分
長さ
掌編
#ちょっと不思議#くすっと笑える
おばけにも定休日のイメージ

あらすじ

定休日の化け屋敷。三人のおばけが、生身の受付係・美晴に脅かしてほしいと頼む。しかし、暗闇も白い布も通じない。休みの日の小さな遊びが、物置の箱で思わぬ方向へ進む。

読みやすく、好きなところから。

目次・4章

一 白い布は洗濯中

水曜日、化け屋敷の玄関には、白い布が干してある。

正確には、おばけの衣装だ。

「裸じゃないんだから、そんなに見ないで」

廊下の奥から声がした。

美晴は干した布から目をそらした。見えているのは、床から少し浮いた、半透明の青い服の女だった。裸どころか、いつもよりきちんとした襟が付いている。

「今日もその格好で出ればいいのに」

「それじゃ、下宿を探しに来た人でしょう」

返事をしたのは千代さん。この屋敷の二階で、階段を上がる客を、後ろから呼び止める役をしている。

おばけが本当に出る屋敷として売り出してから、屋敷には少しずつ客が来るようになった。美晴はその受付と掃除を担当する、生きている人間だ。

水曜日だけは、受付も脅かしも休み。美晴は昼の間に掃除をして、早く帰ることになっている。

だが、廊下の先で三人のおばけが並んでいた。

千代さんと、天井から顔を出す源さんと、壁の向こうを歩くタケル。

「お願いがあるの」と千代さんは言った。

「脅かしてほしい」

美晴は、持っていたバケツを置いた。

二 怖がる側の都合

「皆さん、おばけでしょう」

「だから、驚く側をやったことがないの」

千代さんは椅子に腰を下ろした。ちゃんと座れるのに、扉を通るときは面倒がって壁を抜ける。

ここのおばけは、物に触ると決めれば触れる。すり抜けると決めれば、すり抜ける。ただし、持ち物まで一緒には抜けられない。源さんが天井へ財布を置き忘れるのは、そのせいだった。

「この間のお客さんね、廊下を走ってきたのに、帰りは笑ってたでしょう。ああいうの、私もしてみたい」

「怖いのは、嫌ではないんですか」

「嫌だけど、終わったら笑えるくらいの」

タケルが言った。三人の中でいちばん若く見えるが、いくつなのかは、美晴はまだ知らない。

美晴は時計を見た。掃除の続きに戻れば、いつもどおり三時には帰れる。

「十分だけなら。私が仕事でやる脅かしじゃなくて、遊びとして」

「源さん、聞いた?」

千代さんが上を向いた。源さんの顔はもう、天井の中へ半分入っていた。

「掃除の邪魔はせんよ」

「遊びの途中で逃げるなら、荷物を持って逃げてくださいね」

源さんはポケットの財布を押さえた。

まず、美晴は扉の後ろへ隠れた。

三人には廊下を歩いてもらい、通りかかったところで、両手を上げた。

「わっ!」

千代さんは微笑んだ。

源さんは目を細めた。

タケルは「おお」と言った。

「感想?」

「うん」

次は白い布をかぶった。

「干してあるからって、まだ乾いてないよ」と千代さんが言った。

美晴はすぐに脱いだ。言われたとおり、肩が冷たくなっていた。

電気を消した。三人のおばけは、暗い中でも美晴がよく見えるらしく、「右の裾、踏みそう」と親切に教えてくれた。

棚の上から木の人形を落とす仕掛けは、掃除の仕事を増やしただけだった。

美晴は床へ座り、散らばった木の人形を拾った。

「普段、何が怖いんですか」

三人は考えた。

源さんが「火事」と言い、タケルが「それは遊びにしちゃ駄目」と答えた。

千代さんは、少し考えてから言った。

「人に嫌われること」

「それも、ちょっと重いです」

美晴は木の人形を、一つずつ箱へ戻した。

三 開けてはいけない箱

十分は、もう過ぎていた。

「今日はここまで。私、掃除を終わらせます」

美晴が言うと、三人は名残惜しそうにうなずいた。

「今度、考えてきます。私だけじゃなくて、皆さんも考えてください」

「私たちが考えたら、驚けないじゃない」と千代さんが言った。

「一人ずつ、違う仕掛けを考えたら?」

タケルが少し顔を上げた。源さんも、天井から出てきた。

「互いに、知らない仕掛けを」

「それなら私、考える」と千代さんが言った。

美晴はバケツを持って、裏の物置へ行った。

そこには、先月までの古い案内板や、修理待ちの椅子がある。椅子の隙間に、紙箱が一つ挟まっていた。ふたの横に、小さな丸い穴がいくつも開いている。

「誰かの、忘れ物?」

持ち上げると、中で何かが動いた。

美晴はそのまま、床へ置いた。

かさ。

もう一度、音がした。

美晴は後ろへ下がった。箱の中身より、箱を開けた瞬間に飛び出してくるものが、昔から苦手だった。

何かわからないものが、わからないまま、こちらへ来る。

物置の戸の横から、源さんがのぞいた。

「どうした」

「これ、何ですか。皆さんの?」

源さんは箱を見た。丸い穴を見て、すっと顔色を変えた。もともと薄い顔色が、さらに薄くなる。

「わしは、知らん」

「触ってないですよね」

「触ってない」

源さんは壁の向こうへ消えた。

すぐに、千代さんとタケルが来た。タケルは穴を見てしゃがみ、箱へ手を伸ばしかけた。

「開けていい箱?」

美晴は聞いた。

「……僕のだよ」

タケルの声は、いつもより小さかった。

箱の中で、ぴ、と声がした。

美晴はゆっくり息を吐いた。

「鳥?」

タケルはうなずいた。物置の奥の、破れた換気網を指す。

「今朝、ここに入ってきて、出口がわからなくなってたから。外へ出そうと思って、箱に。でも源さんを呼びに行ったら、天井に財布を探しに行ってて」

「それで、そのまま?」

「水の皿は入れた。でも、後で怒られると思ったら、言いにくくなって」

千代さんはタケルの隣へしゃがんだ。

「鳥がいるのに、脅かしごっこしてたの」

タケルは下を向いた。

美晴は窓を開け、外へ出られる場所を確かめた。三人で箱を庭へ運ぶ。源さんも、いつの間にか廊下の端に立っていた。

誰も手で追わず、箱を安定した場所へ置き、少し離れてふたを開けた。

小さな茶色い鳥が、ふたの縁へ止まった。

源さんが一歩下がった。

鳥は屋敷の屋根へ飛び、それから、木立のほうへ消えた。

庭に置いた開いた紙箱の縁に小鳥が止まり、美晴と三人のおばけが離れて見守る。

四 次の水曜日

「源さん、鳥が苦手なんですか」

美晴が聞くと、源さんは帽子をかぶり直した。

「急に飛ぶからな」

「すり抜ければ、当たらないでしょう」

「当たるかどうかの話ではない」

美晴には、わかる気がした。

タケルは、空の箱を畳んでいた。千代さんは、換気網を直すよう、管理人へ頼むためのメモを書いている。字は、意外に丸かった。

「ごめん」とタケルが言った。

「今度は、閉じ込めたら、すぐ言って。助けるつもりでも、私たちだけで何とかできるか、わからないから」

美晴がそう言うと、タケルはうなずいた。

源さんが、小さく咳払いをした。

「わしも、すぐ来ればよかった。箱が動いて、怖くてな」

「言ったら、嫌われると思った」とタケルは言った。

千代さんが、手を止めた。

「嫌いにはならないけど、怒ることはあるよ」

タケルはうなずき、それから美晴を見た。

「今の、少し怖かった」

美晴は笑うか迷った。千代さんも、同じ顔をしていた。

「次は、ちゃんと、終わって笑えるやつにしよう」

美晴が言うと、源さんは大きくうなずいた。

翌週、水曜日。

美晴が屋敷へ来ると、廊下の椅子に、紙箱が三つ並んでいた。

一つには〈中は空〉、一つには〈生き物ではありません〉、最後の一つには〈源さん、財布はポケット〉と書いてある。

「先に全部教えたら、怖くないでしょう」

美晴が言うと、千代さんは真面目な顔で答えた。

「何が出ないかは教えたけど、何が出るかは、教えてない」

タケルが、二番目の箱を抱えた。

「源さんから、どうぞ」

「わしは、そっちがいい」

源さんは〈中は空〉と書いた箱を指した。

「それ、上から手が出ます」

千代さんが言ってしまい、三人はしばらく黙った。

美晴は、玄関の〈本日休館〉の札を裏返さずに、内側から鍵を掛けた。今日は、自分の掃除が終わってから、十五分だけ参加する約束だった。

午後、最後の窓を拭いてから、美晴は掃除道具をしまった。椅子を一つ借りて、箱の並ぶ廊下へ戻る。

源さんが一つ目の箱へ近づき、短く叫んだ。

それから、笑う声がした。

掃除を終えた美晴と三人のおばけが、椅子に並べた三つの箱を囲んで笑う。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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